*天国の木陰

 風邪で少し弱っていた気力も元に戻り、再びスポーツで汗を流す喜びを味わうことが出来た。

 しかしその喜びをいっぺんに吹き飛ばすようなことに出会った。

 気温も30度以上であろうと思われる3時前、帰宅中、前方の木陰に手押し車と人の横たわっているのが目に入る。通り過ぎる瞬間女性がうつぶせにしているのが確認出来た。咄嗟に死んでいるのだろうかと血の気が引くのを感じた。車を止めて声を掛けようか、と思ったが家も近いことだしと帰宅したが、すぐ現場に向かう決心がつかない。
もし死んでいたら・・十数年前、事件現場に居合わせたことがあった。参考人として3,4時間警察にいろいろ聞かれ大変迷惑を蒙ったことが思い出され。だが足は現場に向いていた。 言葉を掛けて返事が無ければ電話は何処に掛けるのか、何処の人だろうか、心臓がバクバクしているのを感じる。

 手押し車に買い物袋、その横に倒れたように臥せている。「もしもし、もしもしどうされましたか?」「  」・・頭が動いた。「大丈夫ですか?」  「大丈夫よ。暑いので涼んでいるの」さらに顔を見ると近所の人。心中穏やかではない。汗が吹き出るのを憶える。人に心配させて家が近いのに帰って休めばいいものを!  うぅんここは木陰で天然の涼風が吹き抜けるし、彼女の家より涼しいかも知れない。緊張の糸もほぐれ
まだ横たわって涼んでいる彼女に「気をつけてお帰り」・・・

 「ありがとう」の声を後にしてその場を離れた。なにか最近気が弱くなったのかな〜でもやはり死んでいなくて良かった。こんどはおばさん、家で涼んでください。