うぐいすの糞 

 小学校では”かきかた”で初めて毛筆を持ち半紙に字を書いた。教室の机の右側には硯箱が備えつけられていた。硯に水を差し、墨を擦る。やがて墨汁となり、筆にふくませて字を書く。この墨作りをテレビで見た。

 墨は、煤と膠、香料で出来ている。材料の膠が温度が高いと高品質の墨が出来ない為、秋から冬にかけて生産されるとかで、それも温度の低い午前中に煤と膠を手で練り、足で練りして真っ黒になって職人さんは作る。

 工場の風呂で真っ黒になった身体を洗うのだが、手足の紋、皺に付いた汚れは落ちない。

 そこで問題、と出たのが糠のようにも見える小さな容器に入った物、私は思い出した。子どもの頃、風呂に入った時小さな缶から手のひらに取り、顔を洗った”うぐいすの糞”だと。母親が使うのを見て子どもの私たちも使っていた。

 ”うぐいすの糞”で洗った手は見事綺麗になっていた。こんな効用があるとは知らなかったが、会いたくても会えない母親のこともちょっとばかり思い出した。