梅花  (八)

 
 今朝も朝から濃い霧だ。いくら海が近いといっても毎日毎日霧が続くとは思わなかった。昨夜は、傘無しでは衣服が濡れるような雨みたいの霧で見通しが悪かった。

 青島に向う。船着場はやはり霧でいっぱいだ。しかし、船は出るらしい。乗客はわりと少ない。窓際の席に座り雑談をしていると、前の席の客に「何処の国の人ですか?」と尋ねられる。日本人ですと返事をすると、いろいろ日本について話しが弾む中、名前を書いてくださいとノートを出される。名前を書いて渡すと上手ですねと褒められる。こちらも名前をたずねると、「于といいます。あなたに詩を送りたい。受け取ってもらえますか」とノートに達筆で書かれた。

  梅 花   王 安石

   牆角数枝梅  凌寒独自開  遥知不是雪  為有暗香来 
 
 彼は胶南五中 の于彦倫といい青島に学校関係の受験に行く先生だった。私がただ一人中国を旅しているのを知り、年に負けず香りを出している。これからも頑張ってくださいと褒められた。宋時代の詩人で、政治家でもあった王安石の詩を贈り物に褒めるなんて、漢字の国の粋な于先生、嬉しい出会いだった。